私がDJになるまでに胃がキリキリした話:アルバイト編

私がDJになるまで

私がDJになるまでに胃がキリキリした話をギャラ編、集客編と書いてきたが、しっかり稼げるようになるまでの間どうやって食いつないでいたのか、どんなバイトしていたのか、を今日は書いていこうと思う。あまり参考にならない事の方がなんとなく多い気もするが、これからDJを目指す人の、誰かの何かの役に立てば…という事で振り返っていこう。

学生時代、私はスニーカー屋とくるまやらーめんという、我ながらよくわからない組み合わせの掛け持ちバイトをしていた。家賃に困るような状況ではなかったのだが、なぜかバイトだけは一丁前にふたつやっていた。

スニーカー屋は当時、埼玉県熊谷市にあった新星堂スポーツというお店でバイトをしていた。仕事は楽しく、スニーカーやスポーツアパレルに囲まれて過ごす時間は全然飽きなかった。それに、閉店1時間くらい前になると好きにBGMを流して良いと言われ、自分で作ったMIXテープをここぞとばかりに掛けて技術向上を図っていた。棚に並んだスニーカー達の無言の視線を浴びながら「よし、この展開はいける」と頷く作業は、客観的に見れば奇行以外の何物でもない。

くるまやらーめんのほうでは、常連さんに「ヤング店長!」と呼ばれるくらいに馴染んでいた。勿論、店長ではないのだが、まあ、それだけ一生懸命やっていたということにしておきたい。ただ、その「一生懸命」の理由が、お店への愛というよりは「レコードを買うお金が欲しい」という気持ちに駆り立てられていた事は事実であり、結果として学生の身分でありながら扶養控除の枠を豪快に踏み越え、親からこっぴどく叱られる羽目になった。バイトを頑張りすぎて親に怒られる学生も、そう多くはないと思う。

大学を出てからは、新宿にあったYahooBB(現・ソフトバンク)のカスタマーサポートセンターで働くことになった。いわゆるコールセンター業務だが、ここを選んだ理由は主にふたつある。

ひとつは、契約社員として雇ってもらえたこと。健康保険も有休もついていて、部屋を借りる際の保証まで手伝ってくれた。バイトでろくに収入のない若者に、部屋を貸してくれる大家さんなどそうそういない。これは本当にありがたかった。

もうひとつは、給料が良かったこと。当時の時給で1200円。くるまやらーめん時代の時給は730円スタート。現代では驚かれると思うが、730円という時給は埼玉の片田舎では当時そこまで低すぎる金額ではなかった。バイトを変えた事によって単純に稼げる額が1.5倍以上になった事になる。

ただし、給料が良いのには理由があった。2004年にYahooBBは顧客情報を漏洩してしまい、当時は世間を騒がせた個人情報漏洩事件のまっただ中。YahooBBはそのお詫びをまさかの500円の金券で済ませてしまい、こちらには毎日とんでもない量のブチギレ電話がかかってきていた。つまり、あの高時給は「怒られ代」だったのである。クレームの嵐だったが、電話対応なので殴られるわけではない。「大変申し訳ありません。心からお詫び申し上げます」と、鼻くそをほじりながら対応していたことを、昨日のことのように思い出す。

加えて、家賃も払わなければならないし、レコードも買い続けなければならない身としては、仕事を選んでいる余裕などなかった。しかも当時の私は、コネクションを作るために毎晩夜中までクラブに顔を出していたので、正直、肉体労働をする体力なんて残っていなかった。その点、座ったままできるコールセンターの仕事は、肉体的にはとても楽だった。

しかし、社会に放り出され、毎晩クラブへコネクション作りに行き、翌日は仕事、という生活を続けていたら、当然のように寝坊が増えていき、結局YahooBBは辞めることになった。とはいえYahooBBは巨大企業だったので、事業をいくつもの派遣会社に委託しており、私はその後、別の派遣会社が運営するYahooBBの仕事を次々と渡り歩くことになる。「君!新人のくせに物凄く出来るね!」と驚かれたりもした。そりゃそうだ。

この他にも、法的には問題ないけれど、まあまあグレーだろうな、という仕事にちょっとだけ手を出したこともある。ただ、そういう仕事は長く続けることなく辞めた。ちょうどDJでなんとか食べていけるようになるタイミングと重なったのは、幸運だったと思う。

さて、ここからは少し真面目な話をする。DJだけで食っていきたい人間というのは、どうやら二種類に分かれるらしい。「貧乏してでも何が何でもDJだけでやる」というタイプと、「貧乏になるのは嫌だ」というタイプだ。私は最初、完全に前者だった。しかし、本当にお金がなくなったとき、心の底から「金がないとダメなんだ」という結論にたどり着いた。

お金がないと、心がすさむ。好きな服も靴も買えないし、食べたいものも食べられない。それだけならまだ「苦労した」という思い出で済むのだが、実際にはお金がなくて、人のお金やイベントのお金にまで手をつけてしまったり、犯罪行為をしてしまった人間を、私は何人も見てきた。「貧乏してでもDJがしたい」という人がもしいるなら、私は聞いてみたい。本当に貧乏になってから、それでもやっていますか、と。

だからこそ、若手のDJさんには言いたい。違法でなければ方法は何だっていい、生きていくのに困らないくらいの稼ぎは持っておいたほうがいいよ、と。それさえ確保できていれば、DJにちゃんと真摯に向き合える。買いたいものも少しは買えるし、たまには贅沢だってできる。クラブで500円だけ握りしめて…というのも一見カッコよく聞こえるが、実際にドリンク一杯だけで一晩過ごすのは、想像以上にキツい。これは私自身が実際に経験してるので言うが、ドリンク一杯で一晩過ごしてもマジでつまらない。それに、DJをしている時、来てくれたお客さんと「お金が無くて一緒に乾杯できない」っていうダサい事態も避けられる。

DJにとって割と重要な要素であるファッションについては、多少値が張っても、長く使えて、時間が経ってもずっとカッコいいと思えるものを買うことをおすすめしたい。「ボロボロの服と汚い帽子を被った清潔感の全然ない恰好をしてるDJが良いプレイをしても、迫力もないし説得力もねーんだよ」と昔先輩に言われた事がある。耐えがたい屈辱だったが、先輩の言いたかったことは今はなんとなくわかる気もする。服や帽子がDJするわけではないが、見た目というのもそれなりに大切だったりするのだ。私の場合、帽子を買うお金もなかったので、頭を丸め(ボウズ頭)清潔感を出すことを意識的にしていたが、常連のお姉さま方には「少年院更生中」「寺の小坊主」「磯野カツオ」等と言われた。

まあ要するに、トータルである程度の余裕を持ってDJができるくらいの稼ぎは必要だということだ。

いつもふざけた文章ばかりなのでこういう事を書くと少し照れ臭くもなってしまうのだが、それでも言っておきたい。DJである前に、まずひとりの人間なのだ。お金がないせいで人との関係を壊し、大切な仲間や出会いを棒に振るようなことだけは、絶対にあってはならない。

クラブでの出会いを大切にしてほしいのには、私なりの確固たる理由がある。クラブの現場で踏ん張れる奴というのは、DJ SHUNSUKE調べによると、大体なんでも頑張れる奴が多い気がするのだ。

クラブで頑張っていた奴は、起業してうまくいっている奴がとても多いイメージがあるし、サラリーマンになってもうまくやれている奴が目立つ。それに、クラブでの出会いが昼の仕事につながるケースも実際たくさんあって、私自身、そうやって色々な仕事に関わらせてもらっている。クラブで裏切らずにいてくれた仲間は、昼の仕事でも裏切らない。だから、クラブでの出会いというのは、DJで食べていくという道を選ばなかった後も、人生を大きく左右する可能性がある。本当に大切にすべきものなのだ。そして、その大切なものを守るために、最低限のお金が要る。お金に追い詰められた人間は、仲間との信頼を差し出してしまう事があるからだ。

人生において大事なものランキング上位に「仲間」というのは必ずランクインしてくる。なので、それだけは、お金なんかでダメにしないようにしてほしいと思う。

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