2016 Interview: MC RYU for InterFM TOKYO SCENE 4

時代を牽引する圧倒的なアイコンの不在
RYU: プリンスの話に戻るけど、今の時代って彼みたいにシーン全体を牽引するような、次の世代をどんどん引っ張っていく圧倒的な存在が昔に比べて少なくなった気がするんだよね。HIPHOPで言えば、テディ・ライリー(※1)がニュー・ジャック・スウィングという一大ムーブメントを作ったり、ティンバランド(※2)が独特のチキチキした変則ビートで時代を塗り替えたり、ドクター・ドレー(※3)がウェストコーストを牽引したり。あるいはウータン・クラン(※4)やD.I.T.C.(※5)がニューヨークのプライドを前面に押し出したりね。そういう「この街、このプロデューサーが時代を作っている」という強烈な発信力が、昔ほど見えにくくなっているのは少し寂しいかな。
SHUNSUKE: 今のHIPHOPシーンにおける流行の発信地といえば、完全に南部、いわゆる「サウス」の独壇場という印象がありますよね。ヒットチャートを見てもラジオを聴いていても、やっぱりサウスの勢いが圧倒的だなと感じます。
サウスが誇る「農場(FARM)」の泥臭いカッコよさ
RYU:
昔はサウスの現場なんて、危なすぎてなかなか一般の人は足を踏み入れられなかったよね。「ちょっと待って、ここ本当に一人で入って大丈夫か!?」ってビビるような世界だった(笑)。
でもね、歌詞(リリック)を読み解いていくとすごく面白い発見があってさ。サウスの曲に限らず、都市部ではないエリアのアーティストの曲って、リリックに普通に「FARM(農場)」っていう単語が出てくるんだよ(笑)。ロサンゼルスやニューヨークのラッパーだったら、舞台は「ストリート」や「路地裏」になるでしょ? でもサウスの奴らは「イエー! 昨日も農場でガッツリかましてきたぜ!」みたいな世界観なんだよね(笑)。もちろんアウトキャスト(OutKast)(※6)みたいな天才肌はまた別格だけど、ネリー(Nelly)(※7)なんかはまさにその象徴だよね。あいつ、めちゃくちゃカッコいいじゃん!
ネリーはわざわざニューヨークやLAのクラブに無理して馴染む必要なんてなくて、地元の農場で爆音を鳴らして突っ立っている姿が一番サマになるし、最高にカッコいい。それって裏を返せば、HIPHOPという文化がそれだけアメリカの地方深くまで完全に浸透した証拠でもあるんだよね。いやー、やっぱりサウスは泥臭くて面白いし、カッコいいよ!
SHUNSUKE:
サウスの楽曲って、たまに「曲の中身やリリックはこんな内容なのに、世界中で大ヒットしてるの!?」って驚くような初期衝動に満ちた曲もありますよね。世の中には緻密でメッセージ性の強いリリカルなアーティストもたくさんいますけれど、やっぱり音楽の根底にあるのは「直感」なんだなと痛感させられます。
RYU:
もちろん、リリックの深さやメッセージ性を聴き込んで「いいね!」って評価されるアーティストもたくさんいるよ。コモン(Common)(※8)なんかもそうだし、パブリック・エナミー(Public Enemy)(※9)みたいに、社会に対して声を大にして言ってはいけない過激な真実を突きつけるようなグループもいた。それはそれで大きな意義がある。
洗練された現代スターと、失われた「恐怖感」
SHUNSUKE:
リリックのメッセージ性も面白いですが、最近のヒットチャート(TOP 40)の動向を見ていても、音楽として純粋に面白い変化が起きていますよね。
RYU:
面白いね〜! 今のチャートにも本当にいい曲がたくさんあるよ。たまに流行のスピードが早すぎて、おじさん世代としてはついていけない曲もあるけれどね(笑)。
ただ、全体的に黒人アーティストたちがものすごくスマートに「洗練された」というイメージはあるかな。昔みたいに、見るからにギラギラした野生味のある黒人アーティストって少なくなったでしょ? レッドマン(Redman)(※9)みたいな破天荒な奴や、オール・ダーティ・バスタード(ODB)(※10)みたいな予測不能の怪物は今のアートシーンにはなかなかいないじゃん。みんなドレイク(Drake)(※11)みたいにスマートでスタイリッシュ。
あのケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)(※12)でさえ、音楽的にはもの凄く尖ったコンシャスなイメージがあるけれど、いざプライベートで会ったら普通に落ち着いて知的な話ができそうな雰囲気があるでしょ。昔のアイス・キューブが醸し出していたような、「近づいたらマジで刺されるんじゃないか」っていう剥き出しの恐怖感はないよね(笑)。
商業的なドレイクと、泥臭いミーク・ミル、そして未来を創るチャンス
SHUNSUKE:
確かに洗練されたアーティストのカッコよさは認めつつも、ローカルな熱量も捨てがたいですよね。ケンドリック・ラマーは今や西海岸を代表する全米・世界規模のトップスターですが、現地のローカルなラジオや西海岸のクラブに目を向けると、YG(※13)みたいなドロドロのストリート系ラッパーの曲も今だにガンガンかかっています。
少し前にドレイクとミーク・ミル(Meek Mill)(※14)が激しいビーフ(喧嘩)を展開して、結果的に商業的にはドレイクの圧勝という形になりましたけれど、僕はミーク・ミルのあの泥臭くて熱いスタイルもめちゃくちゃカッコいいと思っているんです。全米規模のセールスならドレイクかもしれないけれど、それはそれとして、格好良さのベクトルが違うだけで両方ともリスペクトすべきラッパーだなと思いますね。
RYU:
そういう意味で言うと、まだ全米のド頭までは行っていないかもしれないけれど、俺はチャンス・ザ・ラッパー(Chance the Rapper)(※15)なんかはすごく良いなと思って注目しているよ。めちゃくちゃカッコいいし、あいつの音楽からはシーンの明確な未来が見えるよね! チャンスもそれこそ、もしHIPHOPじゃなくて他のジャンルで普通に楽器を演奏して歌っていたとしても、確実に売れていただろうなと思わせる圧倒的な音楽センスを持っているアーティストだよね。
風営法改正のその先へ――大人たちが輝く「クラシックカー」の文化
SHUNSUKE:
ここまでRYUさんの素晴らしいキャリアのお話や、僕自身のDJとしての視点なども交えてたくさん語り合ってきましたが、時代の変化とともに、RYUさんも昔のように毎晩熱心にクラブへ足を運ぶことは少なくなったと思います。それを踏まえた上で、これからの東京、ひいては日本のクラブシーンに対して「もっとこうなってほしい」という期待や希望があれば、ぜひお伺いしたいです。
RYU:
ここ数年、風営法改正を巡って業界内でも本当にたくさんの議論や紆余曲折があったけれど、法改正を経て、日本の夜のカルチャーは確実に良い方向へ向かっていると実感しているよ。ただ同時に、海外のエンタメ先進国と比べたら、「日本の夜の環境はまだまだ遅れているな、これからやるべき課題が山積みだな」とも痛感させられる。
一番の課題は、アメリカなんかと比べた時に、僕たちが普段愛しているような良質な音楽が、まだ日本の一般層にまで深く浸透しきっていないということ。「クラブミュージック=一部のマニアックな人たちのもの」というバイアスがまだ根強く残っているでしょ。
だからこそ個人的に強く願うのは、俺たちの世代――いわゆる40代半ばを過ぎた大人たちが、何の気兼ねもなく普通に夜遊びを楽しめるようなクオリティの高い場所がもっと増えていってほしいということなんだ。だって、SHUNSUKEたちの世代だってあと数年もすれば、すぐに俺と同じ年齢になるわけじゃない? 俺はそこを見据えているんだよ。
今の若い子たちのシーンに関しては、ぶっちゃけ放っておいても勝手に盛り上がるから心配していない(笑)。大規模なフェスもたくさんあるし、法的な障壁もクリアされつつあるから、彼らなりに日本らしくピースに楽しんでいけば絶対に大丈夫。若い世代はどんどん新しいカルチャーを作って突っ走ってほしい。
問題はその先なんだよ。俺たちみたいな年齢の人間が、大人の嗜みとして遊べる場所が日本には圧倒的に少ない。日本人はとにかく真面目で仕事をしすぎなんだよね。ライフワークバランスじゃないけれど、「平日の仕事をちょっと早めに切り上げて、今夜は大人のお洒落をして遊びに行こうよ」って言えるような、素敵で余裕のある大人がもっと増えてほしい。これから日本の人口の半分以上が60代以上の高齢化社会になっていくのであれば、なおさら大人の遊び場が重要になってくる。
言葉を選ぶなら、歳を重ねてただの使い古された「中古車」になるんじゃなくて、価値が輝き続ける「クラシックカー」になってほしいんだよね。そして、みんなが格好いいクラシックカーになれるような文化を、クラブシーンが裏から支えてあげるべきだと思う。
若い頃みたいに「HARLEM」で汗だくになって遊ぶのもいいし、「VISION」で最先端の音にまみれるのももちろんOK。だけど、俺たち大人の世代には、銀座の上質なラウンジだったり、東京湾の船上パーティーだったり、あるいはかつての「MADO LOUNGE」のような、洗練されたラグジュアリーな空間が大人の遊び場として機能していく世界線が必要んだよ。
今フロアで遊んでいる若い子たちにも、将来を見据えてそういう「大人の夜遊び」への憧れや目線を持っていてほしいし、SHUNSUKEたちの世代にもそのカルチャーの架け橋になってほしい。60歳になっても若い子に混ざってHARLEMのフロアで踊り狂いたい気持ちはあるけれど、体力的に毎週末それは無理でしょ(笑)。だからこそ、大人の日常にグッドミュージックがもっと密着するような成熟した世の中を、俺の世代でしっかりと形にしていきたいね。
SHUNSUKE:
確かに、僕の年齢の世代でも、20代前半の頃に一緒にクラブで夜な夜な遊んでいた仲間たちは、今やほとんど現場に来なくなってしまいましたからね。
若い文化を作った俺たちが、次に作るべき「成熟した社交場」
RYU:
そう、それは今のクラブが「若い世代のためだけの文化」で完結してしまっているからんだよ。でも、その若い文化の基盤を作ってきた俺たち自身が年齢を重ねて若くなくなっているんだから、受け皿となる次のステージのカルチャーは自分たちの手で新しく作らなきゃいけない。
ニューヨークやロサンゼルスにはそういう大人の社交場が当たり前に存在するけれど、できれば日本発のオリジナルなスタイルを持った大人の遊び場を作っていきたいよね。日本の地上波のテレビを見ていても感じるけれど、今のメディアが提示するエンタメってお世辞にもスタイリッシュとは言えないし、日本全体が「大人の遊び方」に対してちょっとお洒落さを欠いている気がするんだ。だからこそ、自分の世代の未来のためにも、素敵で洗練された大人たちが自然と集まる空間を作らなきゃいけない。そのためには、SHUNSUKEたちの世代が今からブレずに格好いいグッドミュージックを世の中に伝え続けてくれないと困るんだよ。
人生はどれだけ「感動」できたかの回数。だから今夜はすべてを忘れよう
RYU:
最後にこのインタビューの締め括りとして、なぜ俺が今もこうして現役でエンターテイナーをやっているかという本質を話すとね――。人生の豊かさって、結局のところ「生まれてから死ぬまでの間に、何回本気で感動して、心が激しく動いて、心の底から笑えたか」という『回数』で決まると思っているんだよ。とにかくその回数をどれだけ重ねられたか。そして、人々にその決定的な感動の瞬間を提供できる唯一無二の手段こそが、エンターテインメントなんだよね。映画だって、ライブだって、スポーツだってそう。俺はラジオや音楽を通じて、その偉大なエンタメの一環を担っているという強い誇りを持っている。
生きていれば、どうせ日常には嫌なことや理不尽なことが山ほどあるじゃん? ラジオを聴いている瞬間は現実を忘れられても、番組が終わって日常に戻れば、また嫌な現実が待っているかもしれない。でも、「せめて俺がマイクを握っているこの2時間の間だけでも、嫌なことは全部忘れて一緒に大笑いしようよ」って、いつもそういう気持ちでブースに入っているんだよね。
SHUNSUKE:
僕も全く同じ想いで毎週現場でDJをしています。せめてクラブのフロアにいる間だけは、日々のストレスや現実の嫌なことを綺麗さっぱり忘れて、音楽に没頭して楽しんでほしいなと常に願っています。
RYU:
だからこそ、ブラックミュージックには「TONIGHT(今夜)」っていうワードが入った曲が山ほどあるんだよ。「明日はまた大変な日常が始まるけれど、せめて今夜だけはすべてを忘れて踊り明かそう!」ってね。その泥臭くて人間味のあるポジティブな姿勢こそが、今も俺を突き動かす最大の原動力になっているんだ。
SHUNSUKE:
素晴らしいですね、本当にカッコいいです。表現する方法はラジオとDJで違えど、根本の部分では、アンダーグラウンドの現場で泥臭く活動している人間たちが考えていることは驚くほどシンクロしているんだなと確信しました。お互いの持ち場で、なんとか日本の音楽シーンをより良い世界にしていきたいですね!
RYU:
その通り! 現場からどんどん面白くしていこう! これからを生きる未来の子供たちの為にもね!
(完)
【ライター後記】
2ヶ月にわたり連載形式でお届けしてきたMC RYUさんのロングインタビューも、今回でついに最終回です。RYUさんの音楽に対するどこまでも深い愛情や、エンターテインメントに対する絶対的なこだわり、そしてこれからの日本のクラブシーンが目指すべき未来への提言など、他では絶対に聞けない貴重なお話をたくさん掲載させていただくことができ、一人のDJとして、ライターとして激しく感動しています。
実はインタビューを書き起こしている最中、誌面の都合上ここにはどうしても掲載しきれなかったほど面白い裏話やディープなエピソードがまだまだ山ほど眠っています(笑)。それらはまたいつか、スピンオフのような形で突如としてコラムに書かせていただくかもしれませんので、ぜひ楽しみに待っていてください。
長期にわたる連載インタビューに最後まで目を通していただきました読者の皆様、本当にありがとうございました! そして、日本のHIPHOPシーンの貴重な歴史と未来のビジョンをこれほど熱く、快く語ってくださったMC RYUさん、本当にありがとうございました!