2016 Interview: MC RYU for InterFM TOKYO SCENE 3
本記事は、2016年にInterFMのラジオプログラム『TOKYO SCENE』のウェブサイト上に掲載されたインタビュー記事を、アーカイブとして再掲載したものです。掲載内容は公開当時のものであり、肩書きや活動内容などは現在と異なる場合があります。
DJ SHUNSUKEです!長らくお待たせしました、RYUさんのイ
初めてのHIPHOPのライブの話やラジオで何を考えているのか

ジュリアナ東京にレジェンド3組が降臨した奇跡
SHUNSUKE:
RYUさんが、いわゆる「HIPHOPのコンサート」に初めて行ったのは誰のライブだったんですか?
RYU:
実はね、ちゃんとしたHIPHOPのアーティストのライブを初めて観たのは、アメリカじゃなくて日本んだよ。ロスにいる時もいろんなライブを観ていたけれど、日本に戻ってきてから「ジュリアナ東京」(※1)に、アイス・キューブ(Ice Cube)、ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)、フー・スニッケンズ(Fu-Schnickens)(※2)の3組がまとめて来日したことがあってね。
SHUNSUKE:
ええっ、ジュリアナ東京にその3組ですか!? それは凄すぎますね(驚)。
RYU:
当時のジュリアナってさ、最先端の尖った遊び人が集まっている一方で、半分はスーツを着たわけのわからないサラリーマン、あとはお馴染みのボディコンのお姉ちゃんたちが踊っているような空間だったんだよ。フロアのほとんどの客はHIPHOPのことなんて何もわかっていなかった(笑)。でも、本当にHIPHOPが好きなコアな奴らは、その価値を全部わかっていて大興奮だった。
しかもフー・スニッケンズのステージの時には、なんとあのNBAスターのシャキール・オニール(SHAQ)(※3)まで一緒にステージに登場したんだよ! フー・スニッケンズのあの超早口なラッパーが、顔に青筋を立てながらものスごく苦しそうにラップしているのを見て、「へぇ、ラップするのってあんなに苦しいんだな〜」なんて妙な感心をしたりしてさ(笑)。
でもね、やっぱり一番衝撃的だったのはトライブだよ。Qティップ(Q-Tip)とファイフ(Phife Dawg)が出てきて、それまでのトゲトゲした尖ったビートではなく、彼ら(ネイティブ・タン)ならではのジャジーでレイドバックした音がフロアに流れた瞬間。体にじんわり染み渡るような心地よい音楽なのに、頭はもの白く刺激されて、アドレナリンがドバドバ出るのがわかった。「こんな音楽があるんだ!!」って、あの時の衝撃は今でも本当によく覚えている。
アイス・キューブとクーリオが魅せた本物のステージ演出
SHUNSUKE:
それにしても、そのメンツがジュリアナ東京だったというのが意外です。
RYU:
そう、よりによってジュリアナ東京(笑)。
SHUNSUKE:
僕らの世代からすると、ジュリアナ東京にHIPHOPのレジェンドたちが集まるなんて、全くイメージが湧かないです。
RYU:
「何かの間違いじゃないの?」って疑うレベルのブッキングだよね。当時の本国の大御所が同時に3組もいたんだから。現場では、アイス・キューブの近くにいた関係者が冗談半分で「おい、誰かアイス・キューブにおならクッション仕掛けたら1万円やるよ!」なんて言っていてさ。「いや、マジで殺されるからやめろ!」って周りはビビっていたんだけど、実際に話してみたら本人はすごく優しかった(笑)。
そのあと、アイス・キューブが初めて「クラブチッタ」(※4)でやったライブも本当に凄かったんだ。あれこそが本物の「エンターテインメント」だと思ったね。演出がとにかく凝っているんだよ。ただステージにふらっと現れて、曲を垂れ流して終わり、みたいな手抜きは絶対にしない。アイス・キューブは日本語がわからないでしょ? だから、わざとライブの途中で彼がステージから捌ける演出を入れて、残ったサイドMCがフロアを煽るんだよ。「おいみんな、あいつ勝手に帰っちゃったぞ! どう思う!? みんなで中指立てて『Fuck You, Ice Cube!』って叫べ!」って。で、会場中が中指立てて大合唱すると、裏からアイス・キューブが「Yeah!! Fuck You!!!」ってニヤニヤしながら再登場して、一段と盛り上がる(笑)。
Coolioのライブなんかでもさ、ただの歌唱ショーじゃなくて、パフォーマンスの途中で突然ロウソクに火を灯して「おいお前ら、真剣にやらないと音楽は死ぬんだ……」とか熱っぽく語り出したりして。そういうステージングを見るたびに、「やっぱりアメリカって凄いな、HIPHOPでもこれだけのエンターテインメントを仕掛けるのが普通なんだな」って圧倒されていたよ。
SHUNSUKE:
まさに「ザ・エンターテインメント」ですね。素晴らしい。
日本の芸能界への違和感と、ラジオ・音楽業界の楽しさ
RYU:
その姿勢は今でも感じているし、アメリカのエンターテインメントは今この瞬間も絶えず進化し続けていると思う。
一方で、日本はどうしてもテレビ主導の「芸能界」が中心でしょ? ああいう閉ざされた芸能界は、同じことばかり繰り返していて退化する一方だと思うんだ。日本人はこれだけ品格がある素晴らしい国民なのに、なぜかエンタメになるとその品格がゼロになってしまう。だから俺は、今でもテレビには全く興味がないし、芸能界にも興味がない。自分がそっちに向いていないというスタンスは昔からずっと変わらないね。そう考えると、自分の好きなことを発信できるラジオ業界や音楽業界に身を置いているのは、本当に気楽だし楽しいよ。
音楽の本質は「衝動」分析したがる日本のリスナー
SHUNSUKE:
今活躍されている方々にはそれぞれルーツがあると思いますけれど、今の裏話も本当に衝撃的です。RYUさんがエンターテインメントの世界に足を踏み入れることになったきっかけや、その原体験のお話はめちゃくちゃ貴重だと思います。
実は僕、DJを始めるときに「格好から入った」タイプではなくて、純粋に色々な音楽が好きでこの世界に飛び込んだ人間なんです。だから、若い頃は「エンターテインメントってなんだろう?」なんて深く考えたこともありませんでした。今でこそこうしてメディア(TOKYO SCENE NEWS)のお話をいただいて、これだけ世の中に素晴らしい音楽がたくさん溢れている中で、「自分が良い音楽を伝えるきっかけになりたい」と自然に思えるようになりましたけれど。本当に、現場で感じたままを形にしている感覚です。
RYU:
SHUNSUKEは、自分が担っている役割の大きさを、もっと自覚した方が良いよ。音楽っていうのは本来、頭で考えるものじゃなくて「感性」の領域なんだよね。極論を言えば、音楽はセックスと同じような衝動的なもの。それなのに、日本人は音楽をものすごく細かく分析したがる性質があるでしょ? すぐに文章にして理屈を捏ねたり。
海外のアーティストは、日本のそういう音楽メディアのレビューを見て本当にビックリしているんだよ。「日本人はここまで深く聴き込んで分析してくれるのか、凄い!」とリスペクトする人もいれば、「いや、あいつらは理屈ばかりで、グルーヴの本質が伝わっていないよね」と冷ややかに見る人もいる。俺はそれがすごく残念に思うことがあってさ。もっとアホになって、シンプルに明るい楽しさを表現できたら、日本の音楽シーンもまた変わってくるんじゃないかなって。何でも難しく捉えようとするのは日本の素晴らしい文化でもあるけれど……でも、ブラックミュージックってそんなに難しいことは歌ってないからね! 「何もわかってないけど、この勢いが最高なんだよ!」っていう初期衝動。これこそが、エンターテインメントの中でも一番重要な部分なんだよね。
これからの時代に求められる「トラステッド・キュレーション」
SHUNSUKE:
本当にそうですね。僕が「感じたままに良いと思った曲を流したい、発信したい」と思うのは、クラブなどの現場に普段来ない人たちにも、「クラブにはこんなに楽しい空間があるんだよ、カッコいい曲があるんだよ」ということを伝えたいからなんです。きっかけは何でも良い。だからこそ、理屈抜きで「楽しい!」「好き!」「理由はわからないけど最高!」で良いんだと思っています。
最初から現場に遊びに来てくれるお客さんって、すでに音楽がめちゃくちゃ好きな人たちじゃないですか。でも、僕自身がそうだったように、最初は音楽の知識なんて何もなかったけれど、現場で浴びるうちに好きで好きでたまらなくなって、最終的にそれを仕事にまでしてしまったわけです。全員が仕事にする必要は全くないけれど、こうして音楽の本当の楽しさを知る人が一人でも増えれば、シーンの動きも変わっていくと思うんです。
RYU:
今、俺たちの世代が何をしなければいけないかというと――これ、普段はあまり言葉にしないんだけど――要するに「キュレーター」んだよ。今はネットもあって情報量が多すぎるでしょ。若い子たちは、あまりに選択肢が多すぎて「まず何から聴けば良いのか」がわからない。これからの時代は「トラステッド・キュレーション」、つまり『信頼できる人間が選んだもの』が全てになっていくと思う。そういった状況の中で、少なくともブラックミュージックやクラブミュージックの領域において、「今リアルに流行っているのはこういう音なんだよ」って入り口を用意してあげられる存在が必要なんだ。そうしないと、ブラックミュージックって歴史もジャンルも広すぎて迷子になっちゃうから。
リスナーにとって、俺の存在なんて「一つの基準」で良いんだよ。「あのRYUってオヤジがおすすめする曲、ダサいな」という反面教師の基準でも良いし、「やっぱりかっこいいな」という基準でも良い。「あの人は今のシーンをこういう風に見ているんだな」という物差しになればそれでいい。あとは、それを受け取ったみんながそれぞれの場所で楽しくやってくれればいい。だから俺、実はラジオの本番で「何を言うか(情報の中身)」はあんまり気にしていないんだよ。大事なのは「どう言うか」。その情報を、どうエンテメとして伝えるかという見せ方の部分だね。
SHUNSUKE:
それは僕もコラムの文章を書いている時に、全く同じことを考えます。「どうすればもっと読者を惹きつけられるだろう」「この熱量をどう伝えればいいんだろう」って、プロットのやり方を常に模索しています。
リリックのゲスなギャップと、ジェームス・ブラウンの偉大さ
RYU:
絶対に引き込むテクニックはあるよ! 全部がエンターテインメントなんだから。良い音楽に触れたり、良い文章を読んだりするのって、一つの「旅」をするような感覚なんだよね。右脳と左脳で綺麗に分けたくはないけれど、黒人音楽の本質ってやっぱり感性一発というか、直感的なもの。理論ガチガチのジャズとは真反対(あるいはまた違う魅力)の部分があるから、あまりに深く難しく考えすぎちゃうと、音楽としての面白みが半減しちゃうところもあるからね。
SHUNSUKE:
まさに直感ですよね。僕自身、DJとして現場で回している時も、最初は直感で「この曲めちゃくちゃカッコいい!」って判断することがほとんどです。その初期衝動があってから、後追いでリリック(歌詞)を深く調べたりします。まずは理屈抜きの直感。でも、いざリリックを調べてみると、「もの凄く爽やかで綺麗なメロディラインなのに、歌っている内容はとんでもなくゲスい曲だな!」っていうギャップに驚くこともよくありますよね((笑)。
RYU:
ラップなんてまさにそれのオンパレードだよ!(笑) 俺なんて未だにマイケル・ジャクソンが何歌っているか分かってないからね。『Billie Jean』の歌詞の意味なんて全然わからないし、「お前何言ってんだ?」って感じ(笑)。ラッパーだって、社会的・政治的なメッセージ性の強いアーティストもいれば、中身は全くスカスカな奴もいる。「セックス、金、お前が大好きだ!」っていうテンプレみたいな内容ばかりだしね。でも、その使い古されたテーマを「どう面白く、新しく言い換えるか」という表現の勝負。そこがエンターテインメントなんだよ。
最近はEDMの世界なんかもいろいろ聴いてみるけれど、やっぱりちゃんと「良い音楽」が出てきているよね。DTMが普及して誰でもパソコン一台で曲を作れるようになった時代だからこそ、KygoやZeddみたいなアーティストの「音楽的なスキルの高さ」が際立っている。要するに、彼らは「EDM」というトレンドの枠組みがなかったとしても、ポップスや他のジャンルで確実に成功できるだけの素養があるんだよ。自分で楽器を弾けるし、しっかりとした楽曲構成のコードが書ける。そういう基礎がある人間と、ただ流行りに乗ってカッコつけたいだけで作った人間との差は、音を聴けば一発でわかる。そこが決定的な違いだね。
リリックや音楽のルーツに話を戻すと、やっぱりジェームス・ブラウンの偉大さは別格だよ。ファンクという、極論「打楽器とリズムだけ」の音楽を構築して世界中で成功させて、現代のあらゆるポピュラー音楽に最も影響を与えたんだから。その一方で、リック・ジェームス(※5)みたいな天才もいる。彼の楽曲を作るメロディセンスやアレンジ能力はあまりにもレベルが高すぎるのに、歌っている内容はただひたすらに卑猥っていう(笑)。「とにかくセックスさせろ!」みたいなことばかりをあれだけのクオリティで歌い続けた人は、音楽史を見ても本当に珍しいよ。
そして、その究極の完成形がプリンスだったのかなと思う。でも、プリンスには誰もなれない。彼は歌うだけじゃなくて、すべての楽器を自分で超一流レベルで演奏しちゃうからね。あそこまでの怪物的なマルチアーティストが今の時代にいなくなってしまったというのは、音楽好きとしてはやっぱり少し寂しいよね。
続く
※1 ジュリアナ東京:1990年代初頭、港区芝浦に誕生し社会現象となった伝説的ディスコ。
※2 フー・スニッケンズ(Fu-Schnickens):ア・トライブ・コールド・クエストらのバックアップでデビューした90年代HIPHOPを代表する快速早口ラップが特徴の3人組。
※3 シャキール・オニール(SHAQ):90年代〜2000年代のNBAを支配した伝説のセンター。当時ラッパーとしても活動していた。
※4 クラブチッタ(CLUB CITTA’):神奈川県川崎市にある歴史ある大型ライブホール。国内外のHIPHOPアーティストの聖地としても知られる。
※5 リック・ジェームス(Rick James):70年代末〜80年代のモータウンを牽引したファンク界のスーパースター。代表曲『Super Freak』など、過激で卑猥な歌詞と圧倒的なポップセンスを両立させた。